東京・白金・家賃18万マンションに住む37歳独身女性は幸せか?

今週のお題「住みたい場所」

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地方の方には馴染みない地名かもしれませんが、東京に白金という地区があります。

 

白金は、北を南麻布、東が高輪、西は恵比寿に隣接している いわゆる高級住宅地で、そこに住む奥様方を”シロガネーゼ”とバッタもんの絆創膏みたいに呼ぶ人もいて、普通なら 自分達にそんな小馬鹿にしたようなラベル付けされたら 「ディスってんのか?」って怒っても良さそうなものを、それを笑顔で正面から受け止め、犬を連れて昼間からオープンテラスでサラダを もそもそ食べているようなセレブ様が住んでいるような素敵な街。それが白金です。

 

そもそも、白金って”シロカネ”が正式名称で、”シロガネ”のように濁音は入らないのだそうです。また、白金にはプラチナ(白金)通りという、シャレオツなお店が並んでいる並木通りがあるのですが、”シロカネ”って元の意味は銀だそうでして。室町時代に、銀(シロカネ)で財をなした長者が住んでいたために、その名がついたらしいです。「プラチナじゃないじゃん」て話なのですが、それらのウンチクは全て彼女から聞きました。

 

彼女がここに引っ越してきたのは3年くらい前です。2DKの家賃18万円。白金の中心地から離れた少し庶民的な場所です。相場よりはやや安めの物件ですが、それでも高いですよね。彼女は、外資系企業のいわゆる事務職。37歳で、給料もそこそこもらっており、独身なので ここの家賃は払えるのだそうです。ですが、このマンション、どの駅からも離れていて割と不便なところなんですよね。駅から遠いので、彼女は、寝坊して会社の始業時間に間に合いそうになくなるとタクシーで会社に乗りつけているようです。しかも、かなりの頻度で。この家賃なら、場所さえ変えれば、駅近の小綺麗なマンションの選択肢もあるし、そちらの方が便利だと思うのですが、彼女によれば白金に住むことが重要なのだそうです。理由を聞いてみたところ「昔付き合っていたアメリカ人の彼が住んでいたから」とのことでしたが、、ちょっと意味がわかりませんでした。「ほぉ、なるほど」と作り笑いをするのが精一杯で。いや、「なるほど」じゃねーよ。

 

彼女と知り合ったのは、別会社とのある合同プロジェクトでして、彼女はそこのアシスタントとしてきていました。背が高く、ルックスがよく、仕事もキビキビこなすので、プロジェクト・メンバーの中でも目立つ存在でした。仕事で話するうちに休憩室などでも話すようにもなり、あるとき急に「引っ越ししたのだけど、大きい家具が動かせないので手伝ってくれませんか?」と言われ、のこのこ来てしまってからの仲です。なんで、50過ぎの金持ちでもないオジさんの私を彼女がチョイスしたのかはよくわかりませんが、おそらく都合良い、安パイだったのでしょう。

 

私が彼女のマンションを訪ねる時には、恵比寿駅からタクシーを使っています。東口でタクシーを拾い、若い頃によくいったゼスト(メキシカン・レストラン)跡地を左手に見ながら恵比寿街道を直進し首都高をくぐったら、そこは白金ですが、その近辺は白金のイメージと違う庶民的なお店がたくさんあります。そこから少し脇道に入ったところが彼女のマンションです。私は、タクシーの窓から眺める、このあたりの風景が好きで、いつも贅沢と思いながらタクシーを使ってしまいます。窓越しの恵比寿から白金の風景はいつもよそよそしく、私を受け入れていないように感じます。一方、タクシーの中は自分の世界で安心の場所。そのギャップが私を心地よくさせてくれるんですよね。いつ来ても、この辺は私を慣れた感じにさせてくれません。いつまでも、白金は不慣れな場所で、自分の小ささや身の丈を実感させてくれます。自分が安心できる場所では、勘違いして自分中心で世界が回っているかのような振る舞いをしてしまう私ですが、所詮は、都会の中に埋もれて生きている なんでもない人間なんですよね。ここはいつもそれを私に強制的に教えてくれます。だけど、それもなんだか心地よくて。虚勢をはって、見栄のバリア作って、人の噂話に聞き耳立ててる自分を、一旦、元に戻す時間が必要なんだと思います。

 

彼女の部屋は、ゴミが散乱しているということではないですが、服がソファーに脱いであったり、野菜が流しにおきっぱなしなっていたりして整理はされていません。散らかっていると、私が片付けをしておきます。仕事場で見る、清潔で洗練された着こなしからは想像つかない有様です。そして、彼女は計画的に物事を進めることも あまり得意ではなく、収納ボックスを買ってきたものの収納に入れてみたら入りきらなかったというようなことが度々起こります。最初からサイズを測って買えば良いのと思うのですが、思い立ったら行動するという性格で、まぁ、変えられないですよね。注意すれば、不機嫌になるし。

 

以前、彼女は「若い頃、ニューヨークに住みたかった」と言っていました。彼女は帰国子女で、英語も堪能。高い障壁があるようには思えませんので、今からでも住めば良いと思うし、せめてトライだけでもしたらと思うのですが、彼女曰く「私はもう37だし。終わっているから」だそうで、もう そのような冒険はできないのだそうです。最近は、「私はもう終わっているから」は彼女の口癖のようになっていて、その度に「君が終わっているんなら、俺みたいなオジさんは白骨化してなきゃ尺が合わないよ」などと軽口を言っては、微妙な空気を作ってしまいます。

 

もちろん、彼女は終わってなんかいません。彼女は、発想豊かで、優しく、感じやすく、傷つきやすく、人を見る目があり、深い洞察と、これと思ったらやり切ってしまう能力がある、これからの人です。それを全部 彼女に伝えようと思うとなんだか冗談を言っているみたいになってしまうので、いつも、気持ちの10%くらいの言葉に変えて言っています。「まだ何でもできるよ。大丈夫だよ。」の様に。本当は100%の熱量で伝えたいけど、伝えられないのがもどかしい。彼女には、彼女の内面の良さを東京の片隅で見つけている人間が少なくとも一人はいるし、彼女にもそれを知って欲しい。いつか、私が全部をうまく伝えられる能力が身につくその日が来たら伝えたい、そう思っています。

 

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