少女とお風呂と漫画と

今週のお題「一気読みした漫画」

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「誰にでも、昼は来る〜」と言っているのは、中井・DC・貴一さんですが、「誰にでも(乳幼児の子供以外)、幼児期はある〜」と言っているのは私です。知らんけど。

 

50歳を優に越しているオジさんの私にも、あろう事か幼児期がありました。確か私が幼児期の3歳か、4歳くらいだったと思うのですが、近くに小学校4年生くらいの女の子(お姉さん)が住んでいまして。長い髪に赤いリボン、笑顔が印象的なお姉さんでした。私は、何故だか、そのお姉さんに遊んでもらうことが多く、可愛がってもらっていました。今考えると、4年生くらいの女の子だと同級生あたりの子と遊ぶ方が楽しかったでしょうに、いつ遊びにいっても、幼かった私を暖かく迎えてくれていました。幼児の私から見れば、お姉さんは、しっかりした大人であり、母親たち世代とは違う活発さも感じていました。私は、優しくて綺麗なお姉さんが大好きでした。

 

ある日、理由は覚えていないのですが、お姉さんのうちに、夜 預けられたことがありました。おそらくですが、母の仕事が夜遅くまでかかることが分かっていたとか、何かしらの会合が夜にあったとか、まぁ、そんなところで、近所だったお姉さんの家を母が頼ったのだと思います。

 

お姉さんのおうちは土木関連の事業をやっていて、当時、裕福であった様でした。その日は、お姉さんの家族と夕飯を一緒に食べたのですが、色味が茶色オンリーの我が家のごはんではあり得なかったカラフルな洋食風で、すごく美味しかったのを覚えています。ごはんを食べ終え、TVを見ていると、お姉さんのお母さんに「お風呂に入っていきなさい」と言われました。私は、ずいぶん抵抗したと記憶しています。というもの、私は、その当時、お風呂は母か父と一緒に入っており、自分で体は洗えないし、湯船にも一人で入れませんでした。今思えば、3、4歳の子供なのですから、かわいいものだと思うのですが、その時の私は、自分が そんな甘えん坊であることを知られることがすごく恥ずかしく、そのことがお姉さんにバレてしまうことも、とても嫌でした。そのあと、どう説き伏せられたかは覚えていないのですが、お姉さんと一緒にお風呂に入れられてしまいました。お姉さんは、私の体を優しく洗ってくれて、一緒に湯船にも入ってくれました。私は、お姉さんやその家族に馬鹿にされなかったことに、ホッとすると同時に、自分のハダカをお姉さんに見られたことに恥ずかしさも感じていました。

 

お風呂から上がると、体をふいてもらい、お姉さんの部屋に行きました。お姉さんの部屋は、淡い明るい色に包まれていて、勉強机の前には教科書がきちんと並べてあり、壁には当時のアイドルのポスターが貼ってありました。誰のポスターだったかは覚えていませんが、年代から考えて南沙織さんあたりだったのではないかと思います。お姉さんは、私を後ろから抱く様にして私を抱え、私の前で雑誌を広げ、少女漫画を見せてくれました。その時の、私を包み込んでいたお姉さんの腕の温もり、押し付けられた頬の柔らかさ、甘いようなミルクのようななんともいえない匂い。私は、当時、3、4歳くらいだったはずですが、お姉さんを女性として感じていて、ドキドキしていました。その高まりを、お姉さんに悟られまいと、ずいぶん気をつけていた事を覚えています。広げられた少女漫画には、眼の大きな女の子や草原、花などが書かれていて、幼い私から見ても とてもキレイでした。いつも見ていたヒーローものや、テレビ漫画とは違う、まるで別世界をのぞいているかの様に感じていました。

それが私の少女漫画初体験でした。

 

その頃は年代としては70年代前半あたりとなりますが、当時の少女漫画の制作現場をアシスタントの観点から作品にされたのが「薔薇はシュラバで生まれる」という漫画です。

book.asahi.com

昨年の冬、特に目的なく本屋をうろついていましたら、何気に表紙が気になり、暇潰しのつもりで買ったら、これが大当たり。電車の中で一気読みしてしまいました。

 

 作者の笹生那実先生は、ご自身も商業誌デビューされていたものの、70年代前半からアシスタントとしても活躍されており、その時の経験を漫画化されたのが、この作品です。少女漫画といえば、背景に花。題名になっています「薔薇」は少女漫画のことを表しており、「シュラバ」というのは、漫画家さん達の締め切り間際、原稿書き終えるまでの壮絶な制作現場(修羅場)のことを指しています。

 

作中には、美内すずえ先生、三原順先生、山岸凉子先生などなど、少女漫画に詳しくない私でも知っているビッグネームの裏話がてんこ盛りで気分が上がります。また、それぞれの先生は、その先生の作品のキャラクター風に描かれており、それがみょうにおかしく自然と笑えてしまいます。

 

美内すずえ先生の白目など、少女漫画独特のテクニックもふんだんに盛り込まれており、最初は「他漫画家のテクニックをギャグとして擦っているのかな?」と思っていたのですが、読み進めていくうちにそんなことではないことが分かりました。笹生先生の少女漫画と作者に対する愛と尊敬、そして それを多くの人に知ってもらいたいという情熱。その思いが溢れた結果としての作風なのですよね。そして、作中に度々出てくるのですが、その当時の漫画家さんは横の繋がりがあったようで、非常に興味深いものでした。お互いを尊敬し、少しでも年長の人は下のひとに技術を教えるという精神、その辺りが読むと色々と分かってきて、その優しさと熱に なんだか泣けてきます。

 

少女漫画黄金期前の未成熟と混乱 そして熱量を感じられる作品、などというと堅苦しくなりますが、通して笑えるところが満載ですので、楽しく一気に読めるのではないかと思います。

 

男からみますと少女漫画は、少女の秘密の部屋を覗き見しているような、ちょっと気恥ずかしい感じなんですよね。正視できない感じで。そして、少し性を感じてしまう、ちょっと遠い存在であったりもします。そんな、敷居高めの少女漫画を気楽に感じられるものとして、こちら、男性にもおすすめの作品です。

 

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