肉付きの鬼面

今週のお題「鬼」

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「鬼」と聞いて、私が頭に真っ先に思い浮かぶのは、先生が教えてくれた話です。

 

あれは、私が小学校4年の時でした。

その時の担任の先生は、小学生の私たちから見て、

おばあさんくらいの年齢だと思っていたのですが

今考えれば、40代後半くらいの年齢だったのではないかと思います。

 

私は、窓際の席に座っていました。

窓の外の校庭には誰もおらず、空には低い雲が立ち込め、

午後とはいえ、まだ3時くらいの時刻であったにもかかわらず、

教室の蛍光灯が青白く光っていました。

 

午後のホームルーム。

どういった経緯でその話になったのかは、全く覚えていないのですが

先生が実話として語ってくれました。

 

[肉付き鬼面の話]

昔むかしの話です。

ある村の小高い丘の上に古い1軒の家がありました。

そこには、青年とその母親が住んでいました。

青年のうちは貧乏で、畑も狭かったため、

長く、嫁のきてがありませんでした。

青年もその母も憂いていましたが、

あるとき、隣の村から嫁が来てくれる事になりました。

二人はたいそう喜び、しばらくは三人で楽しく暮らしていました。

 

しかし、三年のち、青年は病に倒れ、あっけなく死んでしまいました。

嫁の実家は、それを不憫に思い、村に帰るよう嫁に促しました。

ですが、嫁は、

「お母さんを一人残して、私だけ帰れない」

といい、その家に残る事にしました。

 

嫁は家のことをてきぱきこなし、母親の面倒もよくみました。

そのことは、村で評判になるほどの献身ぶりでした。

 

母は、最初こそ喜んで、嫁の働きぶりに目を細めていましたが

そのうち、その嫁だけが褒められるのを疎ましく思う様になりました。

 

母は、周り近所、そして村中に、

「あの嫁は働きもしないし、使い物にならない」

「自分だけ、ご飯を食べて、私にはよこさない」

「私をうちから追い出そうとしている」

などと、嫁の嘘の陰口をいうようになりました。

 

しかし、村の人は、嫁の献身ぶりをみていましたので、

それを信じるどころか、

「健気に尽くしているのに、あんなこと言われて不憫」

「あの嫁がかわいそう」

「里に帰れば良いのに」

と、むしろ嫁を憐れむ様になりました。

それで、より一層、母は嫁が憎くなってきました。

 

あるとき、母を一計を案じます。

嫁に寺への使いを頼んだ後、こっそり先回りして、鬼の面をかぶり

嫁を脅かしてやろうと考えたのです。

 

ある日、母は、それを実行にうつします。

母は、嫁に寺への嘘の用事を頼みました。

嫁が出かけると、母は、こっそりと裏口から出かけ、

山道を通って嫁の先回りをしました。

普段なら、年老いた母がそのような山道を登れるはずはないのですが、

嫁に対する嫉妬心で、まさしく鬼の如く力が湧いていたのです。

 

寺の門前に着くと、木陰で母は、着物で髪を隠し鬼の面を被り息をひそめました。

そして、今か今かと、気配を消して嫁が来るのを待っていました。

 

しばらくして、遠くに、嫁が寺へ続く階段を上がってくるのが見えました。

母は、驚いた嫁の姿を想像すると楽しくて仕方がありませんでした。

ニヤニヤと笑が込み上げ、笑い声を出さないようにするのに

苦労するくらいでした。

 

そして、嫁が母に、いよいよ近づいてきた時、母は

「ぐおおおぁぁぁ」

と嫁の前に突然現れ、嫁を脅かしました。

 

嫁は一瞬怯みましたが、見覚えのある姿に

「あれ?お母さん?」

と一瞬で見透かしてしまいました。

 

母はびっくりして、急いで山の中に隠れ、逃げるように山道を走りに走りました。

どこで脱げたのか、足は裸足になっていました。

山道で枝や草に引っ掻かれ、足や手は血だらけになっていました。

 

家に着くと、息も絶え絶えでしたが、とにかく鬼の面を外そうしました。

が、面が顔にピッタリくっついて、取れません。

母は焦りました。

「この鬼の面を見られたら何も言い訳ができない」

と思い、無理に剥がそうとしました。

ですが、顔の皮と面がくっつき、痛くて取れません。

母は、意を決して、おもっきり力任せに面を引っ張りました。

「ウギャーーーー」

ついに、お面は外れました。

ですが、あろうことか、お面に母の顔の皮がくっついたまま取れてしまいました。

顎からは血が滴り落ち、母は痛さで、その場に気絶してしまいました。

 

嫁が帰ってくると、土間に倒れている母を見つけました。

血だらけの母を見て、びっくりしましたが、血だらけのお面を見て全てを察し

すぐに布団に寝かせ、看病をしました。

しかし、三日三晩の看病も虚しく、母は死んでしまいました。

 

嫁は、母を恨むでもなく不憫に思いました。

そして、残された肉付きの鬼面をお寺に預け弔う事にしました。

 

その肉付きのお面は、今のあるお寺に残されています。

 

というような話だったのですが、

調べてみたところ、どうやら、この話、福井県に伝えられている話がベースに

なっている様なのです。

本当にあった話と先生は言っていましたが、当然、実話ではありません。

しかも、かなり先生の脚色入っている様でして。

そのアレンジ、先生のどんな意図だったのか。

恨み辛み嫉みが良くないと強調したかったのか、

うるさい子供達を脅かして静かにさせたかったのか、

単に話をよく覚えていなかったのか、

その辺はよく分かりませんが、

もう、その時、泣きたくなるくらい怖かったことをだけを鮮明に覚えています。

 

子供への脅しもほどほどに。

 

ご意見などありましたら、コメント欄かk2h02018@gmail.comまでいただけると嬉しいです。